「住む世界って、そんなに大事ですか」
花平くんは何も言わなかった。
ただ静かに視線を外されて、その先には暗闇が広がっていた。
花平くんが見ているのは、私じゃなくて、どこまでも続く真っ暗な世界。
たしかに最初は全然興味なんてなかったよ。
名前も知らないし、裸見られても別にいいやで済ませてたし。
無関心で、お互いに干渉しなくて。
好きなだけいればいい、好きなときに出ていけばいい。
そう、思ってたのになあ。
私はわがままだから、花平くんの感情なんてフル無視で。
その冷たくて繊細な手をつかんでしまった。
「……いかないで」
怒る?それとも呆れる?
なにをバカなこと言ってんだ、って。
いっそ、そう突き放してくれたほうが良かったのかもしれない。
ねえ、
────なんでそんな顔をするの。
「これ以上、不幸になるなよ」
ぐしゃり、
その金髪をつかんだ彼は、心が痛くなるくらい苦しそうだった。
それは、花平くんが初めて見せた“痛み”だった。



