「……頬、切れてる」
頬?
あ、さっきナイフがかすっちゃったんだっけ。
言われてみればちょっとだけ痛いかも。
ぴりぴりするというか、紙で指を切ったときに似ている。
でも、花平くんのほうが心配。
一応大きな怪我はないみたいだけど……
月明かりを頼りにその顔をながめていたときだった。
「お前はほんとにツイてねーな」
「え?」
「頭かち割られて、階段から突き落とされて、しょーもない喧嘩に巻き込まれてさ。前世で何やらかしたわけ」
だから言い方にいろいろと語弊があるんだってば。
「まあ、俺と出会ったことが一番の災難だったな」
言い返そうと開きかけた口が、そのままの形で止まる。
なんでそんなことを言うのかわからなかった。
意地悪でもなんでもなく、その目はいたって真剣で。
「……そんなわけ、ないじゃないですか」
「関わるような人間じゃなかったんだよ。俺も、お前も。住む世界が違う」
「そんなの、」
……わかってるよ。
なんの取り柄もない私が、花平くんと同じ目線でいられるともふさわしい人間だとも思ってない。
それでも彼の口から、そんな言葉は聞きたくなかった。



