幼少期の記憶はほとんどない。


この男と2人で今までよく生きてこられたものだ、と目の前で酒と頭を抱える親父を見て他人事のように思っていた。



食卓に並ぶメシはどれも冷たく、そもそも並んで食べた記憶すらない。


そこでは孤食が普通だった。

冷めた料理が普通だったのだ。




ある時期から、親父がうわごとのようにそれをくり返すようになった。



『その髪が不愉快だ』


黒かった髪を、面影の残らない金に染めた。


眩しいくらいの髪を見て親父は顔をしかめたが、それ以上髪色について言われることはなくなった。




『その顔が不愉快だ』


元々、髪色を変えたことで上級生から目を付けられていた。

喧嘩を売られればすべて買い、そのたびに傷をつくるようになった。


喧嘩ばかりの俺にまた忌まわしそうな顔をしたが、顔についても何も言われなくなった。