……けど、




「……ごめん周くん。やっぱり、できない」


もう少しで距離がゼロになる……直前で、手の甲で自分の口を隠した。


前までの私なら、きっと受け入れていただろう。


でもいまは自分の気持ちを殺すことはできなかった。



「ごめんね周くん」


ゆっくりと身を引く。

周くんの顔を見ることができなかった。



下を向いていた私の頭に、ぽんと温かいものが乗って。



「え……」


顔を上げれば周くんは笑っていた。

いつものように、とは言い切れないけど、悲しさを感じさせないような笑顔だった。



「今じゃなくてもいい、いつかその気持ちがこっちに向いてくれたらって思ってたんだけどな」


その余地もなさそうだ、って。

一呼吸を置いたあとに、こう続けた。



「ありがとう」


お礼を言われるようなことなんて、何一つできなかったのに。



「……告白してくれたのは周くんが初めてだったよ」


“ごめんね”なんかじゃない。

そんな言葉、おそらく周くんは望んでいない。




「こちらこそ、ありがとう。私を好きになってくれて」


────ありがとう、周くん。




わぁっと、窓の下から歓声が沸き起こった。

なにかのイベントが盛り上がっているんだろう。


もしかしたらその歓声は、私たちを祝福するものになっていたかもしれない。



でも、そうなることはなかったんだ。