私の頭の中に浮かんだのは、劇の最後の場面。

王子さまのキスで白雪姫が目を覚ますシーンで。



『愛してる』


ぎゅっと目をつぶった私の唇に、それが落とされることはなかった。



……打ち合わせ通りの、寸止めのキス。


あのとき私はホントにキスをされるかと思ったし、たぶん周くんもするつもりだったんだろう。


もちろん戸惑いはしたけど、すぐに立て直すことができて。



『王子、さま……?』


私はゆっくりと身を起こし、練習通りにその台詞を口にしたのだった。


そして最後のワルツも失敗することなく踊りきることができ、カーテンコール。

王子さまの隣で観客席に手を振りながら考えた。


なんで思い直してくれたんだろうって。




……たぶん、私が劇を成功させたいって言ったから。


中途半端にしたくないって言ったときのことを覚えていてくれたんだ。


あのときキスをされていれば、言わずもがな私は気が動転したと思う。

そのあとの台詞が飛んだり、ワルツで失敗したり。


少なくとも、何かしら劇に影響が出ていたはず。



……だから。




私は今度こそ覚悟を決めて、周くんの衣装の袖をぎゅっと握る。


ここで、受け入れるつもりだった。


白雪姫としてじゃなくて、茅森憂として。