でも予想に反して、周くんはちょっと意地悪な顔をした。
「覚えてる?最初、俺を“しゅう”って呼んだときのこと」
「うっ、その節は大変申し訳なく……」
覚えているに決まっている。
入学早々、無礼を働いてしまったんだもん。
今度は笑われた。
その顔は少し悲しそうでもあり、私はドキッとする。
「そのあとのこと、覚えてねーかな」
「その、あと」
私が周くんの名前を呼び間違えて、本当の名前を教えてもらって。
……それで、そのあと。
『あまねって読むんだ。あ、もしかして、遍くと同じ意味?』
『どーなんだろ。読みにくいとしか言われたことなかったし、気にしたこともなかったな』
『そうなの?遍くはね、広く全体に行き渡るって意味なんだよ』
『へえ、そんなことよく知ってんなぁ』
『受験勉強の賜物なのです』
まだ自己紹介もすんでいないのにすでに多くの人に囲まれていた周くん。
男女問わず誰とでも楽しそうにしている彼に、その名前はとても合っていた。
『だから、加瀬沢くんにぴったりの名前だね』
『あはは、ありがとう。でもやっぱ、よく間違えられるんだよなー。ちょっと離れたらすーぐ忘れられて、“しゅう”~!って』
『忘れられる?そっか、じゃあ────』
私がいっぱい呼ぶね、あまねくんって。



