物語もいよいよクライマックス。
いま私はお花のつめられた棺に入っている。
もちろん箱いっぱいの生花を買うだけの予算はないからすべて造花。
それでもなんだか神聖な気持ちになるし、棺で寝る経験なんてもう死ぬまでないんだろうなぁ。
目を閉じて、棺の向こうでの小人と王子さまの会話に耳を傾ける。
ええと、ここからは王子さまにキスされて
そのキスで白雪姫が奇跡的に目を覚まして……最後のワルツだっけ。
長いようで短かった上演もあとすこし。
スキップのときにヤジを飛ばされなかった私の心はすでに穏やかだった。
さあさあ王子さま、はやくキスをしてくださいな。
『ああ、白雪姫。なんということだ……』
すぐ近くで声が聞こえた。
キスをする直前の、王子さまの台詞。
いや、まだだ。
本当の合図は『愛してる』だから。
本来ならここでキスをする、フリをする周くん。
寸止めで、観客側からはわからないようになっているんだけど……
いつまで経っても、その台詞がこなかった。



