不器用オオカミとひみつの同居生活。



舞台そでから出てきた瞬間、観客席がわっと沸いた。


やっぱりすごいな周くん。

空気ががらりと変わったもん。


割れんばかりの声援を前にしても全然緊張してなくて。いつもの周くんだった。


私も本番に強いタイプなのか、さっき飲み込んだ“人”が効いたのか。


それからも大きなミスをすることはなく、物語は進んでいった。



小人たちとのダンスも成功し、グランピーのほっぺにキスもした。


そのときにすうちゃんが興奮して、思わず私の名前を呼んじゃったときはヒヤッとしたけど。



白雪姫と王子さまの出会い、そして惹かれ合う2人。


脚本はだいぶ書き換えられていて、原作よりも早い段階で王子さまと出逢っていた。


ワルツとは違う、また別のダンスを周くんと踊る。



『これほど幸せな時間を過ごしたのは初めてだよ。白雪姫』


アドリブだ。


くるりとターンした私は差し出された手を取ってほほ笑んだ。



『ええ、私もです。王子さま』



「きゃあああ!」


要所要所で歓声が上がる。


今まで練習してきたことは無駄じゃなかったんだ。

こんなにも多くの人が、私たちの劇を見て楽しんでいてくれている。


嬉しくて、でも浮つかないように。

曲の終わりにスカートをつまんで深々とお辞儀をした。