不器用オオカミとひみつの同居生活。




レモン味ののど飴を口の中で転がしながら、緞帳(どんちょう)の影に隠れてステージを見守る。



舞台が暗転したら場面が入れ替わる合図だ。


いまは、怒った魔女が狩人に白雪姫を葬るよう命じるシーン。


そして何の滞りもなくステージがぱっと暗くなり、魔女役たちが舞台そでに戻ってきた。



「次、カヤちゃんだよ。いつもどおりやれば大丈夫!頑張って!」

「う、うん!行ってくるね」


すでに小さくなっていた飴を飲み込む。



「じゃあ、またあとで会おうな」


周くんに了解、と敬礼して最後の深呼吸。


よし、いこう。


舞台の上へと歩いていきながら、すうっと息を吸い込んだ。




それまですこしざわついていた観客は、どこからか聞こえてくる歌声にしんと静まりかえる。


暗転したままのステージで、歌いながら舞台の中心へと歩く私に合わせてスポットライトが当たった。

と同時に、観客席から息を呑むような音もする。



『おはよう、小鳥さん。今日もいい朝ね』


聞き取りやすく、はっきりと。


それでも体育館全体に声届けるのは厳しいから、演者はみんな衣装にピンマイクをつけている。

胸元が大きく開いていて付けられなかった私だけ、耳かけタイプのマイクだった。