「茅森」
「へっ…は、はい」
「帰るぞ」
返事を聞くまでもなく右手を取られ歩き出す。
周くんの横を通り過ぎようとしたとき、左手をぱしりと掴まれた。
花平くんに向けられたその瞳はあまりにも真剣で、私は息を呑んだ。
「奪うから」
さっき感じた疑問が、じわりと確信に変わりつつあった。
するりと解かれた左手は、学校を出てからもずっと熱を持ったまま。
帰り道、花平くんとはお互いに無言で。
……そうだ。
あのエクレア、花平くんは完食してくれたんだった。
こんなときに思いだしたのはまったく関係ないこと。
空を見上げるけど、今日はペガススもアルタイルも見つけられなくて。
濃藍のキャンバスにこぼれたように広がる無数の星たちは、ただ微かに震えていた。
そんな、文化祭前日の夜────。



