ふっと影が落ちて、見上げると隣に花平くんが立っていた。 「泣くなよ」 それが花平くんの第一声。 でも、私の頬は濡れていない。 目も乾ききっていた。 「泣いてません」 「泣いてる」 「泣いてないって言ってるじゃないですか!」 ガタンと椅子が倒れる音がした。 視界が暗くなる。 私は花平くんの胸の中にいた。 「泣いてんだろ。さっきから、最初からずっと……泣いてんだよ」 耳元で聞こえる低い声が、すっと私のなかに入ってきた。 ああ、そうか…… 泣いているのは、私の心だった。