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「ごめんなさい」


こっちゃんと泣き合った、その日の夜。


家に帰ると花平くんはいつもどおりで。

でも、その頬はすこし赤くなっていて。



すぐに切り出すことができなくて、寝る前まで引き延ばしてしまった。


それまでの会話はゼロに等しい……いや、それは前からだけど。



とつぜん謝った私に、背を向けていた花平くんが振り返った。


何を考えているのか、じっと見つめられる。



「なにが?」

「なにがって……」


覚えてないわけがない。

絶対記憶にあるはずなのに、花平くんは知らないふりをする。


「恩を仇で返しちゃったじゃないですか」


「まず恩売ってねーし。覚えてねー」


「本当に言ってます?」



記憶が飛ぶほどつよく叩いちゃったのかな。


近づいて、左の頬に触れてみる。


腫れてはないみたいだけど、すこし心配になってきた。



「お前のほうがやばいだろ」

「え?」


「これ、両方赤くなってっけど」


あいかわらず冷たい手が右頬にそえられる。


ひんやりとした冷たさが、熱をおびてる頬に心地よかった。