「……いい加減にしろよ」
頭上から聞こえた声にゾクッとした。
うなるような低い声は私じゃなくて、こっちゃんに向けられていた。
「俺はあんたに少しも興味ねーんだ。あの日、
助けたのも後々文句言われたらめんどくせーからだよ」
それだけでこっちゃんは何のことか分かったらしい。
さっと青ざめて愕然と花平くんを見つめていた。
私には何のことか分からないけど、でも……
「俺はあんたのヒーローでも王子サマでもない。
勝手に勘違いして、追いかけ回して、
挙げ句の果てにはこれだ。
こんな最悪な女、
後にも先にもあんただけ────」
乾いた音が廊下に響いた。
右手がじんじんと痛んでいた。
たぶん、花平くんはもっと痛い。
人をぶつことがどれほど傷つくのか、分かっているはずなのに。
花平くんがすべてを言い終わる前に、私の手は動いていた。
「……謝ってください。こっちゃんに謝って」



