「大丈夫。それなりにできてるよ。お母さんもパートに出てくれるし、私も出来る限りバイトのシフトは組んでもらってるから」
「俺になにかできることがあれば……」
「ありがとう。でもなにもないよ」
「……そう、だよな」
俺がどれだけ心に寄り添いたいと思っても、そこには必ずうちの家族の存在がある。
たくさん話したいのに、なにを言っても間違いな気がして、結局口を結んでしまう。
「バイト、十時に終わるんだよな。迎えに行くから」
「え、いいよ。防犯ブザーあるし」
「行く。心配なんだよ」
ひとりで夜道を歩かせたくないってこともそうだけど、色々なものを背負いすぎている彼女から目を離したくない。
「あと、気休めにしかならないかもしれないけど、一応描いとく」
俺はそう言って、汐里の親指の爪にまたニコニコマークを描いた。
「ありがとう」
汐里は和むように柔らかく笑ってくれた。