16歳、きみと一生に一度の恋をする。



現在、住んでいる二階建てのアパートは築六十年は過ぎている。

錆び付いた階段を上がり、真ん中の202号室が今の自宅だ。

近所付き合いはないので同じアパートの住人とは会えば挨拶をする程度。オートロックなどはもちろんついていないので、セキュリティはチェーンロックのみ。

インターホンはあるけれど顔は見えないタイプだし、昭和の雰囲気を漂わせている外観と相まって、いまだにおばけがでる場所と言われている。

カバンからキーケースを出して鍵を開けようとすると、ガチャリと内側からドアが開いた。


「おかえり、汐里」

「え、お母さん。なんで?」

「うーん。ちょっと貧血起こしちゃって早く上がらせてもらったのよ」

「貧血? 大丈夫なの?」

私は慌ててローファーを脱ぐ。たしかに顔色を見るとまだ青いようにも感じた。


「少し横になってたほうがいいよ。晩ごはんは私が作るから。麻婆豆腐は刺激が強いから今日はやめようか」

私は買い物袋を床に置いて、お母さんを布団に寝かせる。


「これじゃ、どっちが親だかわかんないね」

お母さんが申し訳なさそうに、両眉を寄せた。


「気にしなくていいから。あとでお水も枕元に置いておくね」

「うん。ありがとう」

お母さんは病弱というわけではないけれど、こうして度々体調を崩す。それが精神的なことと繋がっているのは知っている。