16歳、きみと一生に一度の恋をする。



昔はそれなりに友達はいたし、人を避ける性格でもなかった。

でも家庭環境が変わって、自分の置かれている立場も変わって、今までどおりではいられなくなった。

『ねえ、なんで急に名字が変わったの?』

『家もおばけが出るって噂のアパートに住んでるんでしょ?』

『パパが不倫して家を出て行っちゃったって本当なの?』

ママ友というコミュニティで広まっていく情報。聞いてくる友達に悪意はなかったと思う。

それでも根掘り葉掘りと聞きたがってくる無神経さが苦しくてたまらなかった。なにを聞かれても押し黙るだけの私にみんなは『つまんない』と言って、次第に近寄っても来なくなった。

友達だったのに、友達だと思っていたのに、そうじゃなかった。

そんなトラウマが今も私の心に爪痕を残している。


「くそ、藤枝の野郎。一年のくせに調子に乗りやがって。絶対に許さねー!」

買い物を済ませてスーパーから出ると、同じ学校の男子生徒が駐輪場で溜まっていた。

側にある自販機で飲み物を買ったのか、ぐいっと一気飲みをしたあと、理不尽に缶を壁に向かって投げつけている。


上級生であろう彼らの顔には青アザができていて、遠目からでも頬が腫れているのがわかる。

きっと藤枝晃に喧嘩を売って負けた人たちだ。相当怒りが収まらないのか、今度は綺麗に並んでいる自転車を蹴ってドミノ倒しにしていた。


……バカみたい。

そう冷めた視線を送りながらも、藤枝晃みたいに相手が悔しがるぐらい殴ることができたら、少しは気持ちがスカッとするのだろうかという思いが浮かんだ。


【裏切り者】

私にはそんな手紙を送り続けることしかできない。

自分でも卑怯だとわかっている。

でも、私たちのことを捨てた挙げ句に、幸せに暮らしているあいつのほうがもっと卑怯でズルいと思う。