「今井さんっていい子だよね。私たちお試し友達期間中なんだ。本当の友達になりたいって私は思ってるんだけどね」

「たぶん、あいつも思ってるよ」

口ではいらない、ひとりでいいって言うけれど、彼女の心に寂しさがあることはわかっている。

それを俺が埋めることはできないかもしれないけど、せめてなんでも話せる友達が汐里の傍にいたらいいなと思う。


「藤枝くんって今井さんのこと……ううん、やっぱりなんでもない。ごめんね。立ち入ったこと聞こうとしちゃって」

冨山でさえ簡単に勘づいてしまう俺の気持ちに、汐里は気づいていない。

自分のことには無頓着なうえに、人からの好意にも鈍い。

「今井さんのバイトならあと十分くらいで終わると思うけど、うちまで一緒に行く?」

「……いや、いい。その代わりこれをあいつに渡してくれない?」

そう言って冨山に預けたのは、ホームセンターで買った防犯ブザーだった。

「お守りがわり。俺からってことは内緒にして」

本当は自分が家まで送っていきたいけれど、それは許してもらえないだろうから、せめて防犯ブザーぐらいはと、でかい音が鳴るものを選んできた。

「自分で渡さなくていいの……?」 

「汐里を苦しませたくないから。じゃ」

未練がましい背中をむき出しにして、俺は歩いてきた道を戻る。


なんで汐里を傷つけている家族の中に、俺がいるんだろう。 

なんでただ傍にいたいだけなのに、俺たちの間にはこんなにも障害があるんだろうか。

俺は彼女に近づいちゃいけない。

俺とあいつは一番遠い場所にいるべきだ。 

そうやって、頭でも心でも繰り返しているのに……。

俺はなにをしてても、汐里のことばかりを考えている。