「ありがとう」 

「ううん。化膿しないように家でも絆創膏は取り替えてね」

ただでさえ頭がぐちゃぐちゃだというのに、今は冨山さんのことにも混乱していた。

すると彼女は救急箱を片付けて私の隣に座った。


「ごめんね。ビックリしたでしょ? お母さんは私たちが同じクラスだって知ってたんだけど、私が言わないでって口止めしてたんだ」

「……なんで?」

「だって今井さん、クラスメイトとも距離を作ってるから、バイト先が私の家だって知ったらすぐに辞めちゃうんじゃないかって思ったの」

「そんな理由で辞めたりしないよ」

「そうだよね。なんかそうかなって思いはじめてからは自分で言おうとしてたんだけど、なかなかタイミングが合わなくて……」

思い返せば、私がどんなに素っ気なくしても、彼女はいつもなにかを言いかけていた気がする。 

 
「……ごめん。私が聞こうとしてなかった」

「ううん、いいの、いいの!」

今は冨山さんの優しさが、消毒液よりも身体に染みてくる。


「今井さんってさ、バイトの面接の時に志望動機は店の前を通るといつもいい匂いがしてお腹がすくからって答えたでしょ」

「え?」

たしかに面接を受けた時に色々と聞かれた。

高校に入ったらすぐにバイトをすると決めていたし、なにより早くお母さんの負担を減らしてあげたい気持ちが強かったので、面接は張り切っていた気がする。

印象を良く見せるために明るく演じていた部分はあるけれど、志望動機は本当のことだった。