「冷やすのはいいから、ちょっと膝枕してよ」

「さ、さすがにそれは……恥ずかしいからイヤ」

「お願い。そしたらすぐ治る気がする」 

「……う、うーん」

汐里はかなり渋っていたけれど、俺の押しに負けるようにして、ちょこんとソファに座ってくれた。

彼女の膝に頭を乗せると、自分でしてほしいと言ったくせに心臓の鼓動が速くなっていた。


「晃ならこういうこと、してくれる女の子はいっぱいいるんじゃないの?」 

「今はいない。それに膝枕なんて、してほしいと思ったことなかったし」 

「じゃあ、今はなんで?」

「さあ、なんでだろう」

今まで浅い付き合いばかりをしてきて、それが自分に合ってると思っていたのに……。汐里とは心を通わせたくなる。

けれど、同時に後ろめたさも感じる。

汐里のことを大切だと感じるほど、本当のことを言わなければいけないと思っていた。


「……なあ、汐里」

彼女の膝から頭を離した。次の瞬間に、足がテーブルの角に当たって揺れたあと、置いておいたカバンが床に落ちてしまった。

半分だけチャックが開いていたようで、逆さまになっているカバンから中身が出ていた。


「あーあ、待って。私が拾ってあげる」

そう言って汐里がカバンに手を伸ばす。

「ま、待って」

止めようとした声よりも先に、汐里の視線はあるものを見て固まっていた。
 
「これって……」

穏やかに時間が流れていた空間が、一瞬にしてピリピリしたものに変わっていく。

彼女が俺のカバンから拾い上げたのは、彼女が父親宛に書いた手紙だった。それは今日のぶんだけではなく、今まで送ってきていたすべての手紙だ。