ここが学校だと忘れてしまうくらい時間の進みがゆっくりだ。このまま昼休みが終わらなければいいのにと思ってしまうほどに。 
 
「なあ、手貸して」

「……?」

汐里が首を傾げながら、右の手のひらを見せてきたので、俺は「逆」と言って甲が表になるようにひっくり返した。

汐里の指は折れそうなほど細い。割れ物を扱うように親指に触れると、貝殻みたいな小さな爪に固まった血がついていた。

爪を噛むこと。きっとそれは彼女なりに消化できない気持ちの表れなのだと思う。 

俺はテーブルの上にあったマジックをおもむろに取った。

「これ、絆創膏がわり」

言葉と一緒に、汐里の爪に絵を描いた。それは目と口を書いただけの簡単な顔だ。

「……絵、下手だね」

「おい」

「でも、可愛い」

汐里の口角が少しだけ上がる。

こんなのは気休めに過ぎないのかもしれない。でも俺は……。

「もう噛むなよ」 

汐里に新しい傷を作ってほしくない。