俺は窓際に置いてある赤色のソファに座った。もちろんこれだって俺が用意したものじゃなくて、最初からあったものだ。

人の視線がうざくて、喧嘩を吹っ掛けられるのも面倒で。どこかひとりになれる場所はないかと探して、見つけたのがこの部屋だ。

……ここにいると眠くなる。あの広すぎて落ち着かない家は嫌いだ。

綺麗なものばかりが揃い過ぎていて、まるで汚いものを見えないようにしているみたいだ。


俺はウトウトとしてくる眠気に逆らうことなく目をつぶる。

それからどれだけの時間が過ぎたのだろう。耳の奥で汐里の声がする。


「ねえ、ちょっと……!」

ハッと目を覚ますと、汐里が不機嫌そうに立っていた。

「人のこと呼んでおいて、寝てるとかなんなの」

壁にかけられている時計を確認すると、すでに昼休みになっている。

「……本当に来たんだ 」

俺は寝ぼけたまま、ぽつりと呟いた。

「なにそれ」

「だって、来ないかと思ってた」

「そっちが教室まで迎えにくるとか脅したんでしょ」

汐里は購買部の袋を抱えている。まるで知らない場所に迷い込んでしまったかのように、きょろきょろと部室を見渡していた。


「よく俺がここにいるってわかったな」

言いながら、寝ていた身体を起こした。

東側の部室棟のことは伝えたけれど、部屋までは教えていない。

来ても来なくても寝落ちしなければ外で待っているつもりだった。教室に迎えにいって目立たせることをするつもりなんて最初からない。


「だって、この部室の前だけ真新しい足跡があったから」

汐里はずっとドアの前に立っていた。当たり前だけど、かなり警戒しているようだ。

「とりあえず座れば」

俺はソファを軽く叩く。

「いい、ここで」

「あ、そこに蜘蛛!」

「……ひぃっ」

汐里が肩をすぼめて、こっちに逃げてきた。