最初から授業を受ける気分ではなかったので、俺は一足先に部室棟に向かった。その途中で、昨日の三年生がうろちょろしていて、どうやら俺のことを探しているようだ。
身体がでかい、目付きが悪いというだけで、喧嘩を売られることにはもう慣れた。
そうやって悪目立ちしてる原因は自分にもあるのだろう。
べつに他人なんてどうでもいいし、好き勝手に言われても気にならない。そんな俺が唯一、どうでもいいと思えないのは、汐里ぐらいだと思う。
二階建ての部室棟は雨風にさらされていて、あちこちが錆び付いている。
使用禁止の紙が貼られている水道。屋根下のベンチには誰のものかわからない傘がぽつりとかけられていて、放置されているバケツの中には泥水が固まっていた。
そんな人目に触れていない部室棟には各階ごとに五部屋が並んでいる。
どの部屋のドアノブも土埃が被っているけれど、その中で一階の角部屋だけは綺麗な銀色が見えていた。
俺は慣れたようにドアノブを回す。
ここは新しい部室棟ができるまで陸上部が使っていた部屋だ。
壁に沿うように配置されている棚には、スパイクやミニハードルがそのままにされているけれど、どれも古くて使い物にならないものばかり。
最初は部屋の空気が悪くて咳ばかりをしていたけれど、毎日出入りするようになってからは、ずいぶんと埃っぽさがなくなった。



