結局、俺は朝ご飯には手をつけずに家を出た。

同じ形の家がずらりと並んでいる住宅街。近所の人たちは品よく挨拶をしてくれるけれど、なんだか自分がこの場所から浮いている気がして、歩くスピードも自然と早くなる。


学校に着くと、昇降口は混雑していた。みんながじろじろと俺のことを見てくる。

「藤枝くんってちょっと怖いけど、かっこいいよね。彼女いるのかな?」 

「いるでしょ。あのルックスだもん」 

そんな声が聞こえて視線を向けると、女子たちは睨まれたと思ったのか素早く逃げていった。


他人から見れば、俺は目付きが悪いらしい。

もちろん自覚はないけれど、向こうから逃げてくれるなら逆に好都合だと思っている。


「こら。藤枝。話があるからちょっとこい」

教室に入る寸前で、担任に呼び止められた。

担任の澤村(さわむら)はいわゆる熱血教師で、手のかかる俺のことを見捨てずに世話を焼いてくれるけれど、正直放っておいてほしいと感じている時もある。


「なんの話?」

「昨日の喧嘩のことに決まってんだろ」

俺が殴った三年はどうやらあのあと保健室に連れていかれて、養護教諭に手当てをしてもらったらしい。

たかが一、二発やり返しただけなのに大袈裟だ。こっちだってまだ口の中が切れていて、血の味がするっていうのに、いつも俺だけが説教の対象になる。