「晃。現実的に難しいことがこれからたくさんあるかもしれないけど、もう我慢しなくていいんだからね。晃が決めたことは全力で応援する。もちろんお父さんも同じ気持ちよ」

そう言って、母さんがにこりと笑った。

俺がいないところで両親がどんなことを話しているのかはわからない。

でも母さんも俺の心に大切な人がいることには気づいていると思う。

治療はこれからも継続していくけれど、病気と向き合おうと思えたのも、逃げたくないと決心できたのも、ぜんぶ汐里という存在があったからだ。


あの日、高校説明会で汐里と二度目の再会をした。

去年の桜は狂い咲きとも呼ばれていて、寒い中でも咲いている花がたくさんあった。

きっと、あの瞬間から、俺の歯車は廻りはじめた。

他の人なんて見えない。家族も関係ない。

ただ、ただ、今井汐里という女の子に心が惹かれたんだ。


俺は寂しげに枝だけになっている桜を見つめる。

この桜が満開になる頃、俺はどうなっているだろう。

きみはなにをしているだろう。

お互い前に進めているだろうか。

近くて、遠い、一番好きな人。

どうか、笑っていてほしい。

俺は、汐里と繋がっているストラップを空にかざした。