16歳、きみと一生に一度の恋をする。


「……傷、痛くないの?」

彼の口元から滲んでいた血は止まっていたけれど、痛々しく切れている痕がまだはっきりとわかる。


「いてーよ」

そう言いながらも、彼は半分にした肉まんを二口で食べてしまった。

もしかして足りないんじゃないかと心配になったけれど、かじってしまった肉まんを返すわけにもいかないので、私も続きを食べた。


「……なんで喧嘩したの?」

「しらね。向こうが勝手にキレて殴りかかってきただけ」

「嫌われてるの?」

「好かれてはねーだろ」

理由もなく喧嘩を売られても、彼はあまり気にしていないように見えた。


「汐里」

「……え?」

突然呼ばれた名前に、私は瞬きの数が多くなる。


「汐里って呼んじゃダメなの?」

「い、いいけど、べつに……」 

「じゃあ、俺のことは晃って呼んで」

「なんで?」

「うるせー。呼べ」

そんな言い方はないだろうと思ったけれど、なんだか彼が拗ねていたので反論はしなかった。


……晃。

男の子の名前を初めて心の中で呼んだ。


月明かりに照らされた彼の横顔はとても綺麗で、夜空に溶ける空気がほんのりと暖かくなったような気がした。