ふわふわとした気持ちのまま、私たちは外に出た。

出逢った頃は秋の匂いがしていたのに、今は肺に入っていく空気がひんやりとするほど、冬に変わっていた。

「なあ、汐里」

ふわりと彼の甘い匂いがしたかと思えば、後ろから痛いくらいに抱きしめられていた。

肩に回されている腕が熱い。晃の重みと鼓動が、背中から伝わってくる。

「晃……?」

少し顔を傾けて問いかけると、私の肩に彼がいた。風でなびく黒髪が頬に当たるほど距離が近い。

嬉しいのに、なぜか切ない。

だって、晃はこんな風に強く抱きしめない。

お互いの立場も、求めることの難しさも、彼は十分すぎるほどわかってる人だから。


「俺、この街からも離れる」

……ドクンッ。

きっと、私の心臓の音は、彼にも聞こえたかもしれない。

なんとなく、予感はしていた。

きっと私の知らない間に、大きなことを決めてしまったのだろうと。

私が揺らいでいる間に……晃は一歩先の未来を進もうとしてる。
 

「ど、どこ行くの……?」

声が情けないくらいに、上擦った。

「少し遠く」

きみがどんな顔をしてるのか確かめたいのに、これじゃ晃の顔が見えない。