16歳、きみと一生に一度の恋をする。




親指の爪を噛むようになったのは、父に手紙を送るようになってからだ。

どうして噛んでしまうのか、理由をスマホで検索したことがある。

爪噛みは、自分自身の体を傷つける自傷行為のひとつだと書いてあった。

自分の中で処理しきれないストレスに対応しようと、肉体を傷つけることで心のバランスを取ろうとしているんだとか。 

おそらくそれは当たっている。

お母さんが不安定にならないようにと見守っている中で、私は自分の不安定さを誰にも悟られないようにしてるのだ。


「なんで私に話しかけてくるの?」

夜風に乗って、彼の甘い匂いがまた漂ってくる。


「なんかお前って、危なっかしいじゃん」

「私のなにを知ってるの?」

「いちいち質問が多いやつだな」

だって、彼が私のことを気に止める必要なんてどこにもない。


「とりあえずこれでも食う?」

彼はコンビニの袋からなにかを取り出した。まだほのかに湯気が出ているそれは、肉まんだった。

「ほら」

半分にした右側を私にくれた。というより、強制的に押し付けられたと表現したほうが正しい。


彼の様子を窺いながら小さくかじると、ただの肉まんなのにとても美味しく感じた。

また一口、さらにもう一口と頬張ると、彼にクスリと含み笑いをされてしまった。

喧嘩が強くて、男たちを言葉だけで追い払ってしまうほどの威圧感を持ち合わせているのに、無防備に浮かべている笑顔はとても柔らかかった。

どうしてだろう。少し、心が(ほぐ)れる。