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きみに初めて会った時、思わず瞬きをするのを忘れるほど時間が止まった。

その大きな身体と、口元に滲んでいる血と、ヒリヒリと纏っている苛立った空気が触れそうだと思った。

喧嘩っ早くて、負け知らずで、目付きも悪いし、強引なところもあるけれど、きみのことを怖いと思ったことは一度もない。

なにがあっても優しかった。

なにもなくても暖かかった。

そんなきみに言い訳ができないほど、私は強く惹かれていたんだ。


まるで良くないことの前触れのように夕立が降りはじめた。

「あー、濡れちゃう!」

私は急いでベランダに出て、干していた洗濯物を取り込んだ。さっきまで晴れてたのに……なんて思いながら勢いよく窓を閉める。

両手で洗濯物を抱えて進もうとすると、布団バサミがかけられているフックになにかが引っ掛かっていた。

それはスカートのポケットから出ていたスマホのストラップだった。

「あ……っ」

慌てて取ろうとしたけれど、ストラップの紐が切れてしまい、雫型のガラスが床に落ちた。

……晃が買ってくれたものなのに。

ショックを受けていると、「あらあら、紐を新しくすれば大丈夫よ」とお母さんがチャームを拾ってくれた。