「でもひとつだけ俺にも譲れないものがあって。聞いたらすぐに忘れてくれていいからちゃんと言っとく」

俺はまっすぐに一彦さん、いや父の顔を見た。


「もし許されるなら、俺が汐里のこともらっていい?」

強い想いとは真逆に、声が震えていた。

「こんな複雑な立場と環境で、おまけに思いどおりにならないこんな身体でさ。全然夢だし、無理だってわかってるし、どう考えてもどうにもならないことなのに……。俺、汐里のこと諦められねーんだよ。本当どうしようもねーよ。こんな気持ちになるはずじゃなかったのに……っ」

堪えきれない涙が、固く握りしめていた拳の上に落ちていく。

汐里と一緒になるにはいくつのことを乗り越えたらいいんだろうか。

せめて彼女のことを支えられる力がほしいのに、今は自分の涙もうまく拭えない。