「でも俺も一彦さんを責める資格はない。俺だって苦しめるとわかってて汐里に近づいたから」

もっと気が強くて、可愛げがない人ならよかったのに、彼女は脆くて弱くて、それでも頑張ろうとするくらい健気だったから、目が離せなくなった。

「父親のあなたに言うのはおかしいけど、汐里はすげえいい子だよ。でも少し我慢しすぎてる。そんなふうにさせた原因はあなたが母さんが不倫をして汐里のことを裏切ったからだ」

子供が一番最初に出逢う大人は親だ。そこからすべてのことを親を通して学んでいく。

まだ完成されていない十一歳の汐里にとって、父親が母親以外の人の元へ行ってしまった衝撃は計り知れなかっただろう。

「でも同時にあなたは病気持ちで血の繋がりがない俺のことを一度だって邪険にはしなかった。それが恨めなくて悔しいよ」

この人が悪党だったら、母さんと引き離すこともできたのに……。

汐里がいい子のように、この人だって悪い人じゃなかった。

五年の月日をかけて、粗を探してやろうと思っていたのに、ちっとも見つからない。

「……俺は母さんのことが大切だからお願いしますしか言えねーよ。汐里の気持ちを考えたら言っちゃいけないのに、これからもよろしくお願いしますって言うしかない」

この人は俺の父なんだ。

血の繋がりはないけど、汐里たちを犠牲にして手に入れた家族という形がここにある。

もどかしいけれど、やるせないけれど、今の生活ができていることに感謝もしていた。