「俺、汐里と同じ学校なんだ。んで、汐里も俺と一彦さんの関係を知ってる。俺たちが繋がってるなんて驚くだろ?」

「……あ、ああ」

「それで、汐里のことも、汐里のお母さんのこともどう考えてんの?」

もし俺が彼女の立場だったら、他に好きな人を作って自分たちを捨てていった父親のことを恨んで仕方ないと思う。

「……俺はふたりに一生顔向けできないことをしたと思ってるよ」

あまり罪悪感は抱えていないんじゃないかと思っていたけれど、一彦さんは意外にも苦しそうな顔をしていた。

「汐里はさ、小学生の時から手紙を送ってきてた。裏切り者ってたった一言だけ書いた手紙をずっと」

成長とともに、その字体も変化していたけれど、彼女は最初に送ってきたまま、白い余白をぞんぶんに残して、字だけはいつも小さかった。

本当は手紙なんて書きたくなかったし、送りたくもなかったのだと思う。

「そうすることでしか吐き出せなかった汐里の痛みをどこまでわかってる?」

一彦さんはずっと黙っていた。

手紙のことなんて初耳といった顔で、言葉も出ないという感じだった。