「晃」
カーテンの向こうで声がしたかと思えば、一彦さんが見舞いに来てくれた。
話なんて長く続いたことはないのに、仕事が早く終わるとこうして少しだけ顔を出してくれる。
「具合はどうだ?」
「なんてことない」
「そうか」
足の感覚は徐々に戻ってきてるけどれ、まだ自分で歩くほどの力は入らない状態だ。
「今日の外は一段と冷え込んでるよ」
「……そう、なんだ」
会話はいつもぎこちない。互いに言葉を見つけてはすぐに途切れて、無言の時間ばかりが増えていく。
「……なあ、ずっと聞きたいことがあるんだけどいい?」
「え、ああ、もちろん。なんだ?」
珍しく俺から質問したことで、一彦さんは戸惑いながらも嬉しそうな表情をしてた。けれど、次の言葉で顔は一瞬にして曇る。
「汐里のこと、どう思ってる?」
問いかけに、一彦さんから笑みが消えた。
彼女のことを聞くタイミングは探せば過去にいくらでもあった。
でも聞いてしまうことで、母さんの幸せを壊すことが怖かったし、なにより汐里に対してもなにもできないと、自分でタイミングを掻き消していた。



