「ここら辺はああいうバカが多いから気をつけろ」
怒っているのか、心配してくれているのか。どっちにしたって私のことなんてこの人には関係ないことだ。
「……助けてくれてありがとう。じゃ」
言葉少なく立ち去ろうとすると、彼に腕を掴まれた。
「どこ行くんだよ」
どこでもいいでしょと言いかけてやめた。会話が続いてしまったら面倒くさいと思ったからだ。
彼の手を払って私は歩き出す。向かったのは川が流れている河川敷だった。
暗闇では隣街へと続く陸橋の明かりがよく見える。
私は土手になっている草むらに腰を下ろして膝を抱えた。
父の住所は知っていても訪ねたことはない。
さすがにそこまでしようとは思っていないけれど、どんな家に住んで、どんな家庭を持っているのかはやっぱり気になる。
けれど、きっと父にとって私たちは過去の存在であり、もうすでに気にも止めていないかもしれない。
家族って壊れないものだと思ってたけれど違う。
家族は壊れる。
それは一瞬にして。
「それ、癖なの?」
藤枝晃は河川敷までついてきていた。
遠慮もなく私の隣に座ってきて、ギリギリと親指の爪を噛んでいるところを見られてしまった。
「……だったら、なんなの」
「お前、校舎で見かける時もいつもそれやってるよ」
彼の言葉に私は目を丸くさせた。
私の名前を知っていたことにも驚いたけれど、まさか学校で見られていたなんて気づかなかった。



