16歳、きみと一生に一度の恋をする。



「ここら辺はああいうバカが多いから気をつけろ」

怒っているのか、心配してくれているのか。どっちにしたって私のことなんてこの人には関係ないことだ。


「……助けてくれてありがとう。じゃ」

言葉少なく立ち去ろうとすると、彼に腕を掴まれた。
 

「どこ行くんだよ」

どこでもいいでしょと言いかけてやめた。会話が続いてしまったら面倒くさいと思ったからだ。


彼の手を払って私は歩き出す。向かったのは川が流れている河川敷だった。


暗闇では隣街へと続く陸橋の明かりがよく見える。

私は土手になっている草むらに腰を下ろして膝を抱えた。


父の住所は知っていても訪ねたことはない。
さすがにそこまでしようとは思っていないけれど、どんな家に住んで、どんな家庭を持っているのかはやっぱり気になる。

けれど、きっと父にとって私たちは過去の存在であり、もうすでに気にも止めていないかもしれない。

家族って壊れないものだと思ってたけれど違う。

家族は壊れる。

それは一瞬にして。


「それ、癖なの?」

藤枝晃は河川敷までついてきていた。

遠慮もなく私の隣に座ってきて、ギリギリと親指の爪を噛んでいるところを見られてしまった。


「……だったら、なんなの」 

「お前、校舎で見かける時もいつもそれやってるよ」

彼の言葉に私は目を丸くさせた。


私の名前を知っていたことにも驚いたけれど、まさか学校で見られていたなんて気づかなかった。