午後になり母さんが帰ったあと、同じ病室の患者たちの見舞い客がやってきた。
彼女であろう人や、子供連れの人の声が仕切られているカーテン越しから漏れてくる。
患者たちはそれぞれ病気を抱えていても俺のように歩行困難ではないようで、すぐに給湯器や電子レンジがあるフリースペースへと移動していった。
俺はベッドに横になったまま天井を見つめる。
小さな蟻がうごめいているような模様は、学校の保健室の天井と同じだった。
と、その時。シャッ……と薄黄色のカーテンが開いた。
「晃くん、ちょっといいかい?」
それは益川先生だった。
開けられたカーテンの向こうに見えたのは車いすだった。
ベッドから降りると、俺は誘導されるように手を貸してもらい、初めて車いすに乗った。
車いすは自走用ではなく、後ろから押すタイプの介助用だ。
車いすに乗ることにひどく抵抗があったけれど、先生がハンドルを押すと気持ちとは真逆に軽やかに前へと進んでいった。



