「晃、着替え持ってきたわよ」
母さんは一旦自宅に戻って、入院に必要なものを届けにきてくれた。
「お父さんも仕事が終わって面会時間に間に合えば来るって言ってたよ」
「……べつに来なくていいのに」
たかが一週間だし、そんなに大げさなことでもない。
手の感覚は少しずつ戻ってきたけれど、足の違和感だけはまだ取れない。まるで作り物の足が接着剤で付けられているような感じがする。
自由に動かすこともできないし、なによりさっきから続いてる浮遊感のせいで気分も悪い。
……もしこのまま症状が長引けば、歩けなくなったりするのかな。
「晃、ごめんね」
俺の気持ちを読んだように、母さんが悲しい顔をしていた。
俺にしっかりとした病名がついたのは、身体の異変に気づいて二年近くの期間が経ってからだった。
今よりも症状は軽かったし、身体の違和感も年齢的にただの成長期のせいだと思っていた。
母さんも『思春期にはよくあることよ』なんて前向きに言ってくれて、俺もそうだろうと疑わなかった。
けれど、症状は治るどころかひどくなる一方で、内科や整形外科を受診しても原因がわからない。
やっと今の益川先生に会って病名が判明したけれど、金銭的なこともあり、効果的な四週間に一回の点滴ではなく、飲み薬だけの治療を行った。
これは後から知ったことだけど、俺の病気は早期の治療がかなり重要になっているらしい。
何度も症状を繰り返してしまったことによって、一時的に進行を遅らせることはできても、もう回復することはない。



