16歳、きみと一生に一度の恋をする。



その夜、お母さんは睡眠薬を一錠だけ服用した。眠気がくるまで私はずっと手を握っていた。

それから二時間後、寝付いたお母さんの手をほどいて、私は物音ひとつ立てずに外に出る。

一歩ずつ進んでいくたびに歩くスピードは早くなり、気づけば無我夢中で走っていた。

「ハア……ハア……ッ」

息を切らせてたどり着いたのは、いつもの静かな河川敷だった。そこに晃が座っていて、儚げに星空を見上げていた。

「来ると思ったよ」

晃が切なそうに眉毛を下げる。

私もいると思った。

ちょこんと彼の隣に座ると、ホワイトムスクの香りに包まれる。一気に胸が締め付けられていた。

「お母さん……大丈夫か?」

あんなに強く罵倒されたのに、晃はお母さんのことを一番に心配してくれた。

「……大丈夫じゃないよ」

「そうだよな……」

不倫相手の息子である晃と私が仲良くしてるなんて、絶対に知られてはいけないことだった。

でもそれは私以上に、晃のほうがわかっていた。

それを承知で彼は偽ることなく、お母さんの前で名前を名乗り、頭を下げてくれた。

そのまっすぐは痛いほど、私にしっかりと届いている。