「じゃあ、汐里も私のことを裏切るの?」
「え……?」
お母さんの言葉に、目の前が真っ暗になった。
「あの子と仲良くなって、あの人の元に行くつもりなんでしょ?」
「ち、違うよ。そんなこと考えたこともないよ!」
「私の知らない間にあの人とも会っていたんじゃないの? それで汐里も私のことを捨てるつもりなんでしょう」
お母さんは完全に我を忘れていた。きっと晃と会ったことで、風船のように溜め込んでいたことが、爆発してしまっている。
「汐里までいなくなるのなら、私は生きてる意味はないわ」
脳裏によぎったのは、お母さんが救急車で運ばれた日のことだ。
あの時、私は本当にお母さんが死んでしまうと思った。
怖かった。膝から崩れ落ちるくらいに。
「お、落ち着いて。私はいなくならないから」
もう繰り返したくない。
お母さんのことを失いたくない。
「……だって汐里はあの子のことが好きなんでしょ?」
それを聞いた私は全力で首を横に振った。
「……っ、好きじゃない。好きじゃないから、生きてる意味がないなんて、そんなこと言わないでよ」
そう言って私はお母さんのことを抱きしめた。



