「これからはあの子と仲良くしないで。話したりすることもダメよ」
「なんで……」
「当然でしょう? あの子の今の父親はあなたの父親なのよ。それで三人は一緒に暮らしてる。考えなくたって関わっちゃいけないってわかることじゃない」
いつもの優しいお母さんじゃない。昨日のことと重なって、お母さんも余裕をなくしてる。
「……私もお母さんと同じだったよ。晃のことすら許せなくて視界に入れないようにしてた時もある」
最初は拒絶したし、嫌悪感もあった。
私たちを引き換えにして手に入れた幸せが許せないって思ってた。
「でも晃はちゃんと自分の立場も、自分のお母さんがなにをしたのかもわかっていて苦しんでる。それでも遠ざけるんじゃなくて、私に寄り添うことを選んでくれた。それに何度も救われてきたの」
ずっとひとりで抱えていたものを、まるで半分ずつ背負っているような、そんな気持ちにもなってた。
「……汐里、なにを言ってるの?」
お母さんが信じられないというような目で私のことを見ている。
「もしかして、あの子が好きなの?」
「………」
「なにを言われてきたのか知らないけど、いいようにそそのかされているだけよ。目を覚ましなさい」
「晃はそんな人じゃないよ!」
彼は私が今まで出逢ってきた誰よりも優しくて、まっすぐな人だ。
いつもだったらお母さんの気持ちを優先して、私は自分の気持ちを我慢してた。でも、晃のことだけは誤解されたくない。
だって、私の心の傷に気づいてくれたのも、癒そうとしてくれたのも、彼だけだった。
晃がいたから、踏ん張れたことがたくさんあったの。



