「……謝罪はいいわ。そんなの息子のあなたから聞いても意味がないもの」
いつも優しいお母さんのこんな冷たい声を初めて聞いた。
「それで、どうしてあなたが汐里と一緒にいるの?」
「俺があえて同じ学校を選び、汐里に声をかけました」
「どうして?」
「謝りたい気持ちの他に、一彦さんの娘がどんな人なのか興味があったことも事実だと思います」
晃はひとつひとつ誠実に答えつつ、嘘をつくことはなかった。そのまっすぐさが、余計にお母さんを混乱させている。
「興味本意で近づいて一体どういう気持ち? あなたもあなたの母親も私たちのことが可笑しくて仕方ないんでしょう。自分たちは選んでもらって、私たちは捨てられたって、そうやってあの人と笑って話しているんでしょう?」
「……ち、違います!」
「なにが違うのよっ……!!」
お母さんは大きな声を出した。
「あなたの母親は泥棒猫よ。それであなたは泥棒猫の息子だし、そんなあなたたちを選んだあの人のことも軽蔑してるわ」
「……すみません。本当にすみませんでした」
晃はなにも悪くない。でも無関係ではない。晃が頭を下げ続けている姿を見て、胸が張り裂けそうだった。
「晃……」
触れようとすると、ガシッと手を掴まれた。それは怖い顔をしたお母さんだった。
「汐里はこっちに来なさい」
「ま、待って。お母さん話を聞いて」
「いいから来なさい!」
強い力で引っ張られて私は晃から離された。
そのまま家の中へと押し込まれて、ドアが閉まる寸前まで晃は顔を上げなかった。



