16歳、きみと一生に一度の恋をする。



あの時、晃のお母さんと会って迷わずに逃げてしまった。

そのあと晃がどんな話をして、どんなフォローをしたのかはわからない。

「あ、汐里。お帰り。今ね、途中まで迎えにいこうと思ってたのよ。たまには一緒に買い物でも行こうかなって」

私のことに気づいたお母さんが寄ってきた。

「えっと、その子は?」

当然のことながら、お母さんの視線が晃に向いていた。

どうしようと、うろたえている私とは違い、晃は逃げなかった。


「初めまして。蓮見晃と言います」

彼は藤枝という名字で誤魔化すこともなく、はっきりと現在の名前を言った。


「……蓮見?」

お母さんの顔色がみるみる青くなっていく。
当たり前だ。お母さんにとってもこの五年間、使うことも目にすることもなかった名字だ。


「あ、晃……」

止めようとしたけれど、彼はとても真剣な顔をしていて、そこに覚悟のようなものを感じた。

「うちの母が大変失礼なことをしてすみませんでした」

頭を下げる晃を見て、お母さんはすべてを悟ったようだった。 

「決して許されないことをしたことは息子の俺が謝ります。今さら言い訳がましいですが、母は最初妻子がある人とは知らなかったそうなんです。でも好きになってしまい、ひとつの家族を壊す結果になってしまいました」

晃の悲痛な思いがひしひしと伝わってくる。

きっと彼も板挟みになりながら、苦しんでいたのだと思う。