「可哀想なんて思ってないよ。その人はお母さんのためにって気持ちで言ってくれただけじゃない?」

「私のため? じゃあ、汐里も新しいお父さんが欲しいって思ってるの?」

「なんでそうなるの。そんなこと思ってないよ」

「私だってね、好きでひとりになったわけじゃないのよ?」

「うん、大丈夫。わかってるよ」

私はお母さんを宥めるようにして、背中を擦っていた。

こんな時こそ、私が取り乱しちゃいけない。冷静でいなくちゃと、心の中で自分に言い聞かせていた。

「お母さんの好きなテレビ番組、録画してあるから一緒に見よう。その前にお水持ってくるね」

そのあとお母さんは録画が見終わる前に、寝てしまった。

布団を敷いてあげていると、いつもお母さんが使っている化粧台の引き出しになにかが挟まっていることに気づいた。

確認するために引っ張ると、それは小学校の時にやった鼓笛パレードの会場で、お父さんとお母さんと私で撮ってもらった写真だった。

……懐かしい。

あの時の私はやりたかったバトンの試験に落ちて、人数合わせの太鼓になった。

それでもお父さんは張り切ってビデオを回してくれて、お母さんも涙ぐみながら私の演奏を見てた。

そんなこと、お父さんは忘れてしまっているだろうな。

写真の中の三人はこんなに幸せそうに笑っているのに、まさか未来でこんなことが起きるなんて思ってもみなかった。