16歳、きみと一生に一度の恋をする。




このアパートに引っ越してきて、五年が経過した。

間取りは1LDK。プライベートは必要だからと私の部屋を作ってくれたので、お母さんは八畳ほどのリビングを寝室として使っている。

最初は天井の低さも、壁にできているカビ染みも、知らない匂いがする部屋も、なにもかもが嫌だった。

それでもお母さんはいつでも気丈に振る舞ってくれた。

『家は狭くなっちゃったけど、そのぶん汐里と近くにいられるから嬉しい』と笑っていた。

でも程なくして、お母さんが病院で処方されていた睡眠薬を大量に飲んで、救急車で運ばれた日のことは、そんなに遠い話じゃない。

お母さんはビタミン剤と間違えたと言っていたけれど、私は違うと思っている。

今は徐々に回復して、薬に頼ることは減ったけれど、お母さんの心の傷は癒えていない。


それから二時間ほどが経って時間は午後七時を回っていた。

お母さんの顔色もよくなっていたので、折り畳み式のテーブルを出して、晩ごはんにすることにした。