自分のことを説明するのに長い言葉はいらない。

名前は今井(いまい)汐里(しおり)。十六歳の高校一年生。趣味も特技もない。唯一続けていることは……。

【裏切り者】

一行だけ書きなぐった手紙をあいつに送ることだけだ。


「ねえ、お母さん。今日の学校帰りにスーパーに寄っていく予定なんだけど、なにかいるものある?」

いつもと変わらない朝の通学路。今日はお母さんと同じ時間に家を出て、肩を並べて歩いていた。

「買い物なら私が行くわよ?」

「大丈夫だよ。今日は私のほうが帰りは早いし、ちょうどお弁当の冷食も見たいと思ってたからさ」

「じゃあ、木綿豆腐をお願いできる? 今日の晩ごはんは麻婆豆腐にしようかなって」

「あー、あのくじ引きでもらった辛いやつでしょ? 食べられるかな。激辛だって書いてあったし」

和やかな会話をしてるうちに分かれ道に着いた。


「汐里、気をつけてね」

「うん。お母さんも」

そう言って手を振りながら歩きだす。振り返るとお母さんも同じように後ろを見ていて、私はもう一度小さく手を振った。