父は母を本気で愛しているのだろう。それは今となればザックも信じられる。
だが、父が愛しているのは母だけだろうという思いは消えない。自分のことまで愛しているわけではないのだ。

(だから言えるんだ。罪をかぶれ……などと)

国王とは、常に国の利を考えなければならない。そのために情を捨てることも必要とされるだろう。
ナサニエルはおそらく、それができる王だ。

(……俺には向いていないな)

苦笑しつつ、思いだすのはバイロンのことだ。
毒のせいで、姿が見せられる状態ではなかったらしく、実の親であるナサニエルやマデリンでさえも棺の中を見ることはできなかったのだという。
ザックに至っては、葬儀にさえ出れなかった。
粛々と行われる国葬を、自分の部屋から気配だけ窺うのは酷くみじめな気分だった。

(兄上が、生きていてくれたらよかったのに。国をしょって立つ資質も、能力もあった)

昔の仲の悪さや確執などさっさと捨てて、もっと早くに和解するべきだったのだ。
そうすれば、支え合って父を補佐できた。侯爵の対抗勢力として、今よりずっと強固なものが出来上がっていたはずだ。

(俺はしょせん半分は平民だ。王位に未練はない……が)

せめてコンラッドが優秀ならば、王座を譲るのはやぶさかではなかった。なんといっても正妃の息子だ。
血統がすべてではないが、こと王家にとって血統は大事だ。
が、コンラッドは学園でも評判が悪い。第三王子ということで責任感も薄く、周りも誰も諫めなかった。

(……俺も諫めはしなかったな。同罪か。なまじ王子が三人もいたから、三番手にまで回ることはないだろうと誰もが放置しすぎたんだ)

悔いても過去は変わらない。
アイザックは頭を振って、先のことに目を向ける。

アイザックが最も危惧していることは、こうして国内の利権をめぐって争っているさまを、諸外国が見ているということだ。
領土が広いモーリア国は、常に外国からの侵攻を警戒しなければならない。
こうしている間に、外敵から攻められ国を失ったら、王座など何の意味も無くなるというのに。

「父上も侯爵もそれを分かっているのか……」