王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました

ライザの指示のもと、用意された茶葉とお湯を使って、クロエがお茶を淹れる。
クロエが淹れるお茶は、ロザリーが淹れるものの何倍もおいしい。
ロザリーが注意力散漫なのに対して、クロエは誰に何を言われてもあまり動じることがなく、途中で何が起ころうと、お茶を入れることのみに集中できるのだ。

お盆に乗せられたお茶は、綺麗な透き通った赤茶色だ。豊かな香りが鼻孔をくすぐり、飲む前からおいしいことが分かる。お菓子は料理長が作ったものをライザが持ってきてくれた。
ロザリーは毒見の特権で、それを一口ずつ先に賞味し、異常がないことを確認して頷く。
すると、クロエがふたりのところへ持っていった。

「毒見も済んでおります。どうぞ」

クロエの姿を確認すると、ナサニエルは瞬きをして彼女を見つめた。

「ああ、イートン伯爵のお嬢さんか」

「いつも父や兄が面倒をかけております」

「いや。伯爵にはいつも助けられている。その恩になかなか報いることができず、本当にすまないと思っているんだ」

「恐悦至極に存じますわ」

恭しく頭を下げ、クロエはロザリーのほうまで戻ってきた。

「……ちょっと意外ね。陛下って、もっととっつきにくいと思っていたわ」

「そうですね」

ロザリーも頷く。デビュタントで拝謁したときは、厳格そうだが意思を感じさせない無個性さを感じたのだが、離宮で会ったときから、がらりと印象が変わっていた。
思っていたよりもずっと親しみやすく、愛情深い。それでいて、どこか冷徹で底知れなさも感じさせる。

「このまま、ご政務にも復帰されるのかしらね]

「そうであって欲しいです」

こそこそと会話しながら、和やかなアフタヌーンティーの時間は過ぎていった。