王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました


しかし、部屋に近づくにつれ、ざわめきは違った色味を帯びてくる。
驚きが混じったざわめきに、カイラは気になって顔を上げた。

「カイラ、待っていたぞ」

「……へい……か」

部屋の前で、ナサニエルが待っていたのだ。
使用人たちの空気が一気に変わる。間違いなく、国王陛下の寵愛を受けているのはカイラだと証明するのに、これ以上効果的な方法はなかった。
ナサニエルはゆったり周りと見回すと、よく通る声で側近に言いつける。

「しばらく妃の部屋でくつろぐ。呼ぶまで下がっていろ」

戸惑うカイラの腰を抱き、中へと入っていった。ロザリーとクロエは少し遅れて入ったが、中を見て唖然とする。
短期間で揃えたとは思えないほど、立派な家具が並んでいる。三人は横になれそうなほど大きな天蓋のベッドに、大きなクローゼット。縁飾りが見事な全身鏡、細工の凝った宝石箱。くつろぐためのソファや机も、贅を凝らした素晴らしいものばかりだ。

「……陛下」

カイラが眉を顰め、非難がましい声を出す。

「待て、怒るな。君が贅沢を好まないことくらい知っている」

「でしたら」

「これは牽制だ。周囲に、君が寵妃であると分からせるためのな」

「ですが、これではマデリン様が……」

なおも言いつのろうとしたカイラの唇を、ナサニエルが指で押さえる。

「……バイロンを亡くした以上、マデリンを正妃として優遇する必要はない」

カイラは不思議な気持ちで彼を見上げた。昔は、もっとマデリンに遠慮するそぶりがあったのに、あまりにも吹っ切れていないだろうか。