伯爵の顔が誇らしげにほころぶ。
たしかに、アイビーヒルは住みよい街だ。それはイートン伯爵が、平民を大切な財産と考え、街の整備を怠らないからだろう。
ザックの理想は、アイビーヒルにあるのかもしれない。
「あの時は敵も作っただろうが、彼の意見に賛同するものもまた多かった。バーナード侯爵もそのひとりだね。だから我々はアイザック殿を旗頭として、アンスバッハ侯爵に対抗する勢力を作ろうとした。だが、まだ若いアイザック殿には少しばかり重責だったのだろう。やがて心を壊し、見かねたケネスが、アイビーヒルに連れて行ったんだ」
「そう……だったんですね」
「私はね、あの子を息子のように思っている。その一方で、君主として必要な感覚を持ち合わせていると思うんだ。だから彼を支援するし、彼の無実を信じている。君たちも、君たちの目に映る彼を信じてあげて欲しい。そしてできれば、力になってやって欲しいんだ」
イートン伯爵の言葉は、ロザリーの胸にすとんと落ちてきた。
ロザリーの知るザックと、変わりないアイザック王子の姿。王子だからと驕ることなく、平民の日々の暮らしに触れ、困ったことを改善しようとしてくれる。
国を良くするために、彼はいつも自分にできることから始めてくれているのだ。
「もちろんです」
「……そうね」
意気込んで頷いたロザリーは対照的に、クロエは気のない様子で頷いた。



