「まあそれもあるが、私には、彼がやろうとしていることが正しいと思うからだよ。……あそこにある建物が何か分かるかい?」
何の変哲もない、四角い建物だ。
人が住むためのものではないことは分かるが、それだけだ。
「なんですか?」
「平民街の水道の浄水施設だ。地方は規模が小さいから、街や村全体を整備できるが、王都くらい大きな都市となると、一気に整備をするわけにいかない。ましてここは、貴族が多すぎる。誰もかれもが貴族街の整備を優先し、平民街の整備をおざなりにし続けてきたんだ。そのせいで、平民街の水道整備は遅れたし、始まってからも、汚れた水が流れ込み、悪臭が立ち込めることになったんだよ」
ロザリーが住んでいたところは田舎で、整備が遅れていたから井戸の水を使っていた。しかし、イートン伯爵領は水道が引かれていて、綺麗な水を安全に使えたことを思い出す。
「アイザック王子は、貴族議員となって最初の議会で、それを指摘した。議員は貴族ばかりだから、反対するものも多かったんだ。だが、平民街で病気が蔓延すれば、すぐに貴族街へも広がる。平民街を整備することは、結果的に貴族を守ることだと主張し、整備するための法案を通したのだ」
「そうなんですか」
ザックの仕事に関する話は、あまり聞いたことが無い。ロザリーは驚きつつも、嬉しくなる。ザックに平民の血が入っているからかもしれないが、貴賤の差で扱いを変えないところは、彼の素晴らしい資質だと思えたのだ。
「イートン伯爵領のように、みんなが安全に水を使えるような都市にしたいと言ってくれたんだ。あの時は嬉しかったなぁ」



