カイラが王城に戻るのに合わせて、ロザリーも城住まいになる。
そのための支度をしようと、イートン伯爵が街へと連れ出してくれた。
通いの侍女となるクロエも一緒だ。

「ドレスだって調度品だって、職人を屋敷に呼べばいいじゃありませんか。どうして街へ?」

ロザリーは街に出るのが久しぶりだったので単純に嬉しかったのだが、クロエは少しばかり不満そうだ。

「たまには自分の目で見るのもいいだろう? それに、君たちに見せたいものがあるんだ」

イートン伯爵は、平民街の方へと馬車を向けさせた。
王都は、塀で囲われた王城が北側にそびえたち、その周りを囲うように貴族街があり、南側に平民街がある。
貴族街は道幅も広く、馬車が楽に通れるが、平民街に入ると中央の通り以外は細い道ばかりになる。南に行けば行くほど、建物が貧相になっているのが見て取れた。

「どうして平民街に?」

クロエはまだ不満そうだ。

「君たちに、なぜ私がアイザック王子を支持するかを伝えたことがなかったなと思ってな」

「三歳まで育てたようなものですし、単純に息子のように思っているのではなかったのですか?」

問いかけるのはクロエだ。
ロザリーも頷く。ザックから、イートン伯爵を本当の父のように思っていると聞いたことがあったし、ケネスとも兄弟のような間柄だから、てっきり家族的な扱いをしているからだと思っていた。