本当に、ザックは何も気にしていないようだ。前世が犬という告白も、なんの障害にもなっていないらしい。
胸のあたりが熱くなって、ロザリーは思わず笑ってしまう。
こんな王子様と一緒なら、なにがあっても頑張れるような気がする。

「答えは変わっていません。今もザック様が大好きです」

「じゃあ」

「あなたについていきます。どこまでも一緒に行きます。いなくなっても、この鼻で絶対に探し出します」

「はは、頼もしいな」

ぎゅう、と抱きしめられ、ゆっくりとキスをする。
ザックの香りを思い切り吸い込んで、本当に帰ってきてくれたのだと実感する。

「……悪いが、そろそろ離れてもらおうかな」

低い声に、ふたりは我に返る。
見るとベランダの入口に、イートン伯爵が立っていた。

「養父となる身としては、これ以上の婚前交渉は認められません。アイザック王子」

「……伯爵」

「ロザリー嬢はうちの娘にすることで、バーナード侯爵と話が付きました。ロザリー、いいかな。私が君の父親になっても」

「もちろんです。伯爵様こそいいんですか?」

「もちろん。ケネスが君を連れてきたときから、私は君を娘のように思っているよ」

ザックから下ろしてもらって、改めてイートン伯爵に向き直る。
死んだ両親を思い出し、一瞬躊躇した。
けれど、ずっと力を貸してくれたイートン伯爵とケイティは、すでにロザリーにとっても親しい存在だ。

「お父様って呼んでもいいですか」

「もちろん。可愛い娘が二人になるなんて最高だよ。なにより、ケイティが喜ぶ。最も結婚に近い娘ができるんだからね」

娘の花嫁衣裳を準備するのを、誰より楽しみにしているんだよ、と茶目っ気たっぷりに語る伯爵に、ロザリーは思わず抱き着いた。

「ありがとうございます!」

「いやいや。ああ、ロザリー嬢は可愛いねぇ。クロエとは違う魅力だなぁ、うん」

目尻を下げ、にこにこと彼女を抱き寄せる伯爵に、ザックは冷たいまなざしを向ける。

「俺の邪魔をしておいて、自分は抱き着かれるとかどういうことですか、伯爵」

「いやいや。落ち着いてくれよ、アイザック殿。君、ちょっと心が狭くないかね」

「ケネスと同じことを言わないでください」

会話のテンポがケネスとアイザックのそれとそっくりで、ロザリーは思わず笑ってしまった。